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あーゆー ごーいんぐ うぃず みー
こーす あいむ ごーいんぐ うぃず ゆー
いっつ じ えんど おぶ おーる たーいむ(何







ハミングの罠から逃げ切ったケナーはすっかり疲れ、建物の残骸の影でひっそり眠った。


ケナーは数時間で目を覚ました。時間は深夜になっていた。
ふとバッグの中を見て気づく。子犬が居ない!


ケナーは暗闇の中を必死に探した。
数メートル離れた所に倒れている子犬をやっと発見し、抱き上げた。

何故かすっかり冷たくなっている。

「な・・・」
生きているのか死んでいるのかは確認できなかった。

しかし子犬は全く身動きしない。

「そんな・・・」

自分から歩いていったのか誰かが引きずり出したのかは分からなかった。


「…あんなに頑張って生きようとしてたのに…私が何も考えないで眠ったから・・・
やっぱり私のせいなんだ…。みんな私の前からいなくなる・・・」


ケナーは、子犬をかばう事で自分を慰めようとしていたんだと気づいた。
しかしわずかな慰みさえ無くなり、またも希望は潰えた。




町から隔離されている貧民街の一路に、ケナーはいた。
子犬を入れたバッグを片手に、壁伝いに歩く。

物陰に時々幾つかの光る目がこちらを見ていたが、ケナーにはもう気にならなかった。


後ろから誰かが近づいてくる。しかしそれもどうでも良かった。

後ろから来た者はケナーのバッグを素早く奪い取った。

「あ・・・!」

だがケナーは追いかけなかった。もうどうしようもない。

ケナーはただひたすら、自分を襲う喪失感と戦っていた。


前に人が居る。しかしぶつかろうがどうでも良かった。

案の定、前方の集団にぶつかった。


「お?なんだなんだ」
「スリのつもりかぁ?まだまだ甘いぜ」

「・・・・・・」

「おい見てみろよ、このネーチャンよく見りゃ可愛い顔してやがるぜぇ」

「なぁ、オレ達と一緒に楽しいトコ行かない?」
「連れてっちゃおうぜ」

男達はケナーの腕を掴み引っ張った。

「・・・・あ・・・・え?」

ケナーは為す術も無く、男達についていくしかなかった。


歩く途中、何度か質問を受けたが答えはしなかった。

次第に寂れた建物が見えてきた。
しかし意外にも中からは、派手に変わる照明と大音量の音楽が漏れていた。

もちろんケナーは気が進まなかった。見ず知らずの連中に訳の分からない建物に連れて来られるとは。

建物に入ると、まず大音量の音楽が耳を襲った。

「カワイコちゃん一人ご案内~!」
チャラいのが言った。



「あ!」
「ケナーさんじゃないっすか!?」

ケナーは驚いた。
端のテーブルに座りトランプをしていたのはボールドとトップだったのだ。


「ボールド!トップ!何でココに?」

「それはこっちのセリフっすよ!」


「・・・ちっ!ボールドのカノジョかよ。惜しかったぜ」
チャラい男達は再び夜の街に向かって消えていった。


「そんなんじゃないですよ先輩・・・ケナー、お母さんの事は残念だったな」
久しぶりに顔を会わせたボールドが言った。

「うん・・・ボールド、何と言うか・・・ごめんなさい」

「何が?」

「なんだか変な噂に巻き込んだみたいで…」

「あぁ、全然全く気にしちゃいないよ。あんなのはハミングのでっち上げだってバレバレだぜ。
学校休んだ日はケナー、君を探してたんだ」

「え?」
2人の間にしばし静寂が流れる。


「へーへー、俺は邪魔ですね、分かりまっす」
トップは二人きりにさせようとしたがボールドに掴まれた。

「ねぇ、ここは何の建物なの?」
ケナーが聞く。

「ここは・・・何というんすかねぇ、この暗いご時世に若者が盛り上がれる唯一の場所って感じっすかねぇ・・・みんな自由にして遊びに来てるんすよ。だから音楽も大音量で流しっぱなし」
トップがつたない説明をする。

「ふーん、何だかうるさすぎて音楽に聞こえないわ」

「そうすっか?今一番ホットなロックバンドっすよ」
トップが不満そうな顔をする。

「ケナーの感性には合わないだろうよ・・・で、ケナー。いままで何があったんだい?」
ボールドが尋ねる。


ケナーはこれまでの事を詳しく話した。



「…随分と辛かったんだな。でも、もう大丈夫だ。」
「居場所はここに有るっす。 ここで俺たちと暮らせばそのうち道は開けるっすよ」

「…おいトップ。そのセリフ俺が言いたかったんだけど」
「へーへー、言って良いっすよ」
「もう遅いぜ…」


「二人ともありがとう・・・」

ケナーは嬉しかった。が、その通りになる訳には行かなかった。
それは自分と一緒に居たら、ボールドとトップが不幸に襲われてしまうと思ったからだった。


「でも私、ここには居られない・・・!」

ケナーはそう言い、建物から駆け出した。


「待ってくれよ!ケナーッ!」
ボールドが叫んだが、ケナーは立ち止まらなかった。

「何が気に入らなかったんすかね」

「…きっと、俺らにゃ分かんない理由があるんだな…」
ボールドは苦い顔をして言った。




ケナーは離れた暗がりで足を止めた。
ずっと会いたかった友に、自分から離れていく事になるとは。

ケナーの心は酷く痛んだ。
できれば自分だってずっと一緒に居たいのに…。


それでも居場所はどこにも無い。
ケナーはまた、貧民街の薄汚い道を歩いた。


建物の影から、蝿のように手を摩っている背の低いオヤジが歩いてきた。

「どうしたんですそこの人、死にたがってるような顔してー。
そんなあなたにコレ、コイツを一粒飲めばあら不思議、とってもスッキリできるよー。
今なら安くしとくよー。どうしますー?」


オヤジは小さく丸められた怪しい紙包みを持っていた。
ケナーにはそれが非合法のクスリだと分かっていた。

「・・・・・・」

ケナーは無視した。しかしオヤジはしつこい。


「うんじゃあ、今回はタダであげちゃう!もっと欲しかったらいつでも呼びなよー!」
オヤジは紙包みをケナーのポケットに無理矢理突っ込み、どこかへ走り去った。




いつしか空は、明るみ始めていた。
だがケナーに夜明けは来ない。

これ以上町を彷徨っても居場所は見つからないだろう。


ケナーはポケットから紙包みを取り出した。

こんなちっぽけなクスリで、苦しみから解放されるならどんなに楽だろうか。

でも自分を捨てる事になる・・・しかし今の自分のまま居たって辛いだけ…


こんなに辛いならいっそ、楽になったほうが・・・




ケナーは紙包みを開いた。




何も入っていなかった。

代わりに、紙には小さく文字が書かれていた。


『我々はあなたを必要としています ご協力を願いたい  1743-448a』


ケナーにはこれが一体どういうことなのか分からなかったが、最後の数字列は住所の表記であることは分かっていた。

これが最後の希望かもしれない。






住所に表記された場所は、ここからそう遠くなかった。

そこは周りの不毛の土地と同じだった・・・・・奇妙なコンテナが不自然に置いてある以外は。


ケナーは真っ暗なコンテナの中に入り、見渡した。

「誰も居ないわよね・・・」


「来てくれたか」
コンテナの奥から声がした。
その直後、コンテナの扉が閉まる。


「!!」
ケナーはその声に聞き覚えがあったが、誰のものか認識する前に倒れた。



コンテナが宙に浮き始め、激しく揺れたのだ。





その頃、ケナーにビスケ缶をもらった女子は配給を受けに行っていた。
道の途中で落ちている汚れたバッグを見つけた。

「これ、ケナーが持ってたバッグじゃない…。」
中身を見て驚いたのは言うまでも無い。

by kozenicle | 2008-12-05 21:25 | デデスト外伝:メトロノーム

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