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あーゆー れでぃ とぅ ごー
こーす あいむ れでぃ とぅ ごー 
わっつ ごなどぅー べいべ べいべー(黙










「そんな・・・・」
ケナーの家はもはや原形を留めていなかった。屋根は落ち、多くの思い出が下敷きになっていた。
空にはもう晴れないと言わんばかりの黒く厚い雲がかかっていた。

「どうしよう…」
ケナーは戸惑ったが、不安は親戚の方に向けられた。瓦礫の下に埋もれているかもしれない。



長い時間を瓦礫掘りに費やしたが、親戚は見つからなかった。

見つかったのは自分のバッグとウスコビスケットの大缶、買ってもらったメトロノーム位だった。


「ビスケ缶があって良かった…食べ物には困らないわ」
そう呟いた自分が、本当は生きたいのか死にたいのか、ケナー自身分からなかった。




ビスケットを頬張りながら、ケナーは町を彷徨った。
家を失ったそこら中の人々が、延々と黒い土を掘り返し続けていた。
いままで見てきた町の景色がとても懐かしく感じた。


ケナーは途中、後ろから肩を叩かれた。

「何ですか?」

「子供らが食べるものが無くて困っています。何かわけて頂けないでしょうか」
そこには子供にひっつかれた女性が居た。

「…まだ有りますし、良いですよ」
ケナーは数枚のビスケットを渡した。

「有難う御座います」

するとそれを見ていた人たちが集まってきた。

「ウチのばあさんにも食べ物を・・・」
「この子がお腹を空かしています。どうか・・・」
「俺の所も…」


”「みんな、自分が生きるため、家族を生かすために必死に頑張ってる・・・それなのに私ときたら…」”


ケナーがそんな事を思っている内、ビスケ缶の中身は半分以下になっていた。

「もう無くなりそうねぇ・・・」

自分の食料が底を尽きそうなので、ケナーは人通りが少ない方面へ行く事にした。




いつしか周りの風景はより殺伐としたものになっていた。
恐らくこの辺りでブートンの自爆があったのだろう。

足元には溶けたガラス片、頭上には黒く焼けた大木のおどろおどろしい枝。
まだ上からは灰が降ってきていた。


視界の端で瓦礫が動いた気がした。
「気のせいかな・・・」

そのまま瓦礫を通り過ぎようとしたが、どうも動いている気がしてならない。

ケナーは思い切って瓦礫をひっくり返した。

するとどうだろう、何やら押しつぶされた犬小屋のようなものがあった。
そしてすぐ横を見ると、深い傷を負った犬とその子犬が転がっていた。

ケナーは親犬の方を見たが、瓦礫を動かすのに体力を使ったのか完全に動けない様子だった。

親と子の別れをこんな形で見ることになるとは。
ケナーは自分の事もあり、複雑な気分で見ていた。
この子犬は保護するべきか、母親と一緒にしておくべきか。


しかしそう思っているうちに、子犬は怪我した自らの足で歩き始めた。

”「この子犬もこんなに頑張って生きようとしているのに・・・私は何を考えていたのかしら」”

ケナーは思わず子犬を抱きかかえた。

「あなたは私と同じ。でも独りぼっちじゃないわ」

ケナーは子犬にビスケットを与えると、少しは暖かいバッグの中に入れ連れて行くことにした。



ケナーは次第に被害が大きい中心部に近づいていた。
しかし人声が聞こえる。まだ人がいるのか?


「腹減ったよー」
「なんか食べたいよー」
「ねえちゃんなんか買ってきてよ」
子供の声だ。

「ごめんなさいね、また明日探しに行くから」
女性の声だ。


ケナーは気になってその声がする方に行ってみた。
そこには見覚えのある顔があった。


ハミング・・・の周りに居た女子の一人である。


「あら?ケナーじゃない?」
女子が振り返った。

ケナーはビスケ缶を差し出した。
「これ、良かったら皆で食べて」

「くれるの?私に?」

「あげるけど、ちゃんと皆で分けるのよ」

「ありがとう…いままでごめんなさい」

彼女は、餌をあげるようなハミングの態度が気に入らず食料を貰わなかったために、兄弟共々腹を空かせていたところだと話した。

「ケナー、この恩はいつか絶対に返すわ」

「いいわよそんなの。私はこの子犬のご飯を探さなきゃだから、もう行くわ」


ケナーは子犬の入ったバッグを持つと、彼女らに背を向け去った。





あれから歩き続け、狭い空き地にたどり着いた。辺りはすっかり暗くなっていた。
「赤ちゃん用の粉ミルクでもあればいいんだけど・・・」
ケナーは子犬の食べ物を探していた。
しかしビスケット缶は渡してしまったのでケナー自身の食料もすでに無かった。


「お困りのようね、ケナー・ポマレリ」


聞き覚えのある声だ。


「あなたは…ハミング!?」
暗がりの中でよく見えなかったが、ケナーにはそれがハミングだとはっきり分かった。


「ご苦労な事ね…自分の食べ物を他人に分け与えて、自分は飢え死になんて。
この状況だもの、食料が欲しいなら分けてやっても良いわよ」


「私は今子犬の食べ物を探してるんだから、邪魔しないで」

「邪魔?いろんな食料を持ってる私が?・・・それにしてもこの状況で犬の世話とはね。
ほら、これやるわ」


ハミングはサンドイッチを取り出し、ケナーの足元に投げた。


「食べないの?」
「要らないわ」
ケナーはすぐに答えた。

「犬が飢え死にするんでしょ?」
「あなたから貰う食べ物なんて、この子も食べたくないはずよ」
「毒なんか入ってないわよ?さっさと食べなさい」

しかしケナーは足元のサンドイッチを蹴った。
サンドイッチのパンがずれ、何やら光っているものが見えた。

「これは・・・?」
サンドイッチを近くで見ると、それには泥とガラス片が挟まれていた。


「ちっ」

「ハミング…これがあなたの言う食料なの?」
ケナーはハミングを睨んだ。

「サンドイッチの中身を暴いて勝ったつもり?フン……みんな~!食べ物が来たわよ~!」
何を思ったかハミングは、突拍子も無く叫び始めた。


「!?」
すると辺りの影から、貧民街の腹を空かせた者達がゆらりと現れた。


「くいもん、くれ」
そいつらは虚ろな目を光らせながらゆっくり近づいてきた。
ケナーはいつにない恐怖を感じた。

「うま、うま」
あまりの空腹にさっきのガラス片サンドを食べている者もいた。


そいつらはケナーのバッグに手をかけた。

「・・・いぬ、くれ」

「うまそうな、いぬ」

「まさか・・・この子を食べる気!?」
ケナーはバッグをぶん取り退いた。
しかし男達は子犬をわしづかみにして奪おうとする。

「返しなさい!」
ケナーは男達にタックルをかました。

「犬のために自分が傷つくなんて、見てて楽しいわよケナー」
ハミングは嘲笑していた。


男達はしつこく子犬を狙う。

”「このままではこの子が…どうしようかしら」”


しばらくしてケナーは逃げるのをやめた。どうしてこんなに簡単な事に気づかなかったんだろう。



「よーく聞きなさい!あそこに居るハミングの方がずっと美味しい食べ物をたっぷり持ってるわよ!」

ケナーはハミングを指差し大声で言った。
男達の視線はハミングに集まった。
ちょうどハミングはパンを食べながら悦に浸っている所だったのだ。


「こ、こっち来るんじゃないわよ!」
ハミングは逃げ出した。

「パン食わせろ!」
男達はハミングを全速力で追った。



「あ、危なかった・・・」
そしてケナーは逆方向に全速力で逃げた。


子犬と守りきり、ケナーは一息ついた。

「私、ちゃんと生きてるんじゃん…」

しばらくなかった、自分が生きている実感が感じられた。

by kozenicle | 2008-12-04 22:15 | デデスト外伝:メトロノーム

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