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KANTAさん・・・
謎☆サブタイ





「なんだあれは!」
第60話: 神の子_b0142778_9542898.jpg

見上げる人々は口々にそう言った。

シーグザール市北部、戦後より放置され瓦礫の残る未整備地帯に、
突如、白く輝く巨人が姿を現し、聳え立っていた。

常に眩い光を放ち続けるそれは、まるで太陽のように直視する事を許さず、
それが巨人であると判別できる者も稀であった。

巨人の足元では、砂煙が波打ち、渦を巻き、さらに細分化されてそれを繰り返していた。

【遂にこの時が来た】

巨大な天使が腕をかざすと、その周りの空気がゆがみ始め、波を生んだ。
腕を包む波動の周期は、次第に早くなり、それに連れて振幅も鋭く変わっていく。
やがてそれは高音となって寂れた空間に響きわたる。

天使が腕を振り下ろす。
念波は鋭い槍に、その余波は見えない激流となって、辺りに放たれた。
槍は形あるものを砕き、激流はその残骸を綺麗に流し去った。

【汚れた世界を再生するに相応しい無に還すことこそが救済】

天使の放つ念波の槍が地面に刺さる。
そこはヤスリで削ったかのように綺麗に平たく、白銀のような色に変わり、その削り節も粉となって波に混じった。

巨人による再生という名の破壊が始まった。



「この光は!?」

トマス、ブレジン、ケナーもそれぞれのアームヘッドでこの地に向かっていた。
プラント領から帰還して、機体を修復し終えてから、僅か五日しか経っていなかった。

「こりゃどうも覚えがあるな?」

三人はそれぞれが、以前トメラメルと戦った時の事を思い出していた。
しかしトメラメルの輝きが一瞬であったのに対し、今、目の前にある光はそれよりも強く、また途絶える事は無かった。

光源に向かう三機は、天使の起こす砂嵐と光の幕の中へ吸い込まれていった。


天使はそれを阻害することなく、ただ悠然と地に刺さっていた。

【また現れたか 自然の摂理に抗う愚かな種族】

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第60話: 神の子_b0142778_955455.jpg

トマスらは巨人の前に立ち、その姿を見上げた。
トメラメル戦以後、彼らのアームヘッドのカメラは、イーフェメロ同様光を調節する機能が標準装備となっている。

よくみると、天使の頭頂部には、穏やかに笑った青年の顔が逆さに付いていて、それはアリエールだった。


「”自然”に逆らっていたのは、お前たちゴネド族だろう?」

【我は既に単なるゴネドにあらず】

天使は三人と、再生すべき世界を見下ろした。

「何?」

”感じないか?トマス……”

デデバリィが言うと、ホズピタスの震える声が届く。

”……リムーが……テル・リムーが!
 ゴネドの末裔に、取り込まれているというのか!?”

すると天使は下がっていた首を戻した。

【我は汚れた血を得ることによって転生した】

【神の子に】

【新しき神話 新しき世界の前に リムーやゴネドといった古き名は必要ではない】

【清潔な土台を作らねば世界は再び堕落に向かう よって我が手で再生する】

【我は救世を または世界の指導を使命とする 我が名はシル】


巨大な天使「シル」は、かざした手に念波動を集中すると、それを街に向け放った。

当たった場所は槍状の波動に砕かれた後、余波が瓦礫を攫い、その跡には白き新たな大地が出現していた。


”許さん!!”

ホズピタスの声に呼応して、ケナーのヴァムが斬りかかる。
ビームマチェットはシルに当たる前に、その刃を失っていた。

「消された!?」
そしてケナーは、飛び上がった機体が落ちていかない事に気づく。

”リムーを返せ!!”
ヴァムは念波動によって空中に固定されていた。


”無茶だ、ホズ!”
ガモゲドンとブレジンが、コルダックガトリングで援護しようとする。
全ての弾が空中で同時に破裂した。

「リムーとゴネドがくっつくと神みたいになっちまうのか?
 矛盾の力ってすげー!」
ブレジンが言っていると、ガジリドールの機体が軋んでいるのに気づいた。

「おいおいまさか、ガジリドールやオレまで破裂させるんじゃないだろうな?これじゃ不思議は無いけどよぉ」


「皆、下がって!」

”無理だトマス、動きを封じられているのだ”

「くっ……アリエールッ!!」

ヴィムはホーンを突き出し、両手のレーザーレザーを発生、真正面からシルに挑む。

【その名で呼ぶな】
第60話: 神の子_b0142778_9555441.jpg

シルは腕を突き出して、特大の波を集める。
それを急速に収束させると、固めて放ってヴィムにぶつけた。

波動の衝突は、覚醒壁によって一瞬やわらいだが、それでも強い衝撃があった。
瓦礫に叩きつけられるヴィム。

その時、ケナーとブレジンは開放され、トマスに向かって後退した。


「アリエール!今度は何をするつもりなんだ?
 再生だと?新しい世界など本当に必要なのか?」

【トマス・ボーリー これは”リムーの意思”でもある】


シルは再び、念波の剣を放ち、家を純白の更地に変えた。

”どういうことだ!”
ホズピタスが唸る。

”騙されるなホズピタス、リムーの魂は既に奴のところには無い!
 リムーの意思など分かるはずがない!”
デデバリィが制するが、シルは何も言わなかった。

「どうするんだよ?」
「ここで逃げたら、シーグザールは跡形も無くなるわよ?」
「でも……どう戦う!?」

三人が言っていると、シルはつま先からの波動で浮遊し、ゆっくりと接近していた。

「……さっき、僕を落とした時、二人は解放された」

「つまり、あちこち集中できないって事か?」

「やるしかないわね!」

三機はシルに対し、真っ向から立ち向かう。

間合いを見てケナーとブレジンは側面に回り、トマスは天使の顔を目がけ飛び上がった。

しかしシルからは、可視さえ出来るような覚醒壁が発生し、三機を押した。

「そうやすやすと!」
ガジリドールが口を全開にして、バリアに噛み付くようにする。

「バリアーごとき!」
ヴァムのホーンも突き刺さる。

「これならいける!」
ホーンを突き出したヴィムが加速した時、バリアを貫いて、三機は一気に接近した。


ガジリドールの牙がシルの脚を貫く。
ヴァムのマチェットも脇腹に突き立てられ、
ヴィムが両手から放つ、最大出力のレーザーレザーが、シルを一閃した。

シルは一瞬よろけたが、体の隅々まで念波動を走らせ、三機を見下ろした。

【邪魔をするからだよ】

シルが全身から波動を放つ。
三機は吹っ飛ばされ、念波によって押し付けられ、地面に埋もれ拘束された。

機体は圧縮されていくような軋みを上げる。
やがて念波動はまったく逆の方向の力に変わった。

アームヘッドの装甲が飛び散りフレームだけが残った。

ホーンはコアに退行し、デデバリィ、ホズピタス、ガモゲドンの三つが宙に浮かべられた。


【リムーの守護者 二度と守れないようにしてやる】

念波動がうねり、高音を上げる。
その時、三つのジップコアは砕け、四散した。

シルはアームヘッドの残骸に背を向ける。


【ボーリー キミはボクの序章において素晴らしい敵役であった】

【キミの最後の抵抗が見たい 楽しみに待っているよ】


空気に微細な振動が生まれる。
急速に生じたエネルギーが弾けて、シルは遥か空の向こうへ姿を消した。



「……デデ……バリィ……アリエール……」

トマスは薄れゆく意識の中で、デデバリィの欠片を握った。




by kozenicle | 2012-06-10 09:55 | ストーリー:デデバリィ

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