六守人さん・・・
ケナーさんまじケナー。






セメントイシヤの襲来からしばらく、アリエール・パプリカーン勢からの襲撃は無かった。
だがそれは、その間に新機体の開発を急がなければならない事を意味していた。

トマスはようやく真面目に、新機体の触れ込みだった「各国の高性能機を凝縮した謙価版量産機」を開発するため、
ミスターGのもたらしたデータを元にそれを完成へと急がせるのであった。
ついでに、ブレジンのガヅガに継ぐ新機体も、陰で進行していた。



「朝からご苦労さま」
プレハブ小屋のカーテンを開けて、メアリーが言った。

「朝からじゃないよ、夜からだよ」
机に向かってこちらに背を向け、設計図案を書きなぐっているトマス。

「寝たら?」

「いや、今良いとこなんです」

メアリーはあまり話しかけるべきではないなと思い、今朝の新聞を取りに行った。
開いてみると、割かしどうでもいい事がでかでかと書かれていたが、メアリーは、端に書かれていた記事が思わず目についた。

「・・・プラントからの奇跡の帰還・・・?・・・三人の捕虜ようやく開放・・・?」

記事を読んでメアリーは思うところがあった。




それから買出しを思い出したメアリーは、道案内役にケナーを連れて、研究所を後にした。

「ごめんなさい、わざわざついてきて貰って」

「いえ、この町があれから、どうなったかきちんと見て回ってなかったし、丁度いいわ」

世間では休日なので町は比較的にぎわっていた。過ぎていく人の群れの隙間から、戦いの傷跡も見える。

「人通り多いわね、何かあったのかしら」
ケナーが呟いたのを見て、メアリーは無言でうなずく。それから話題を変える。

「あのー、まずは、えー・・・センターデパートってとこに行きたいんですけど」

「いいけど、ここからは結構あるはずよ」

ケナーは、バスで行った方が早いが、町並みをゆっくり見なければならない、と言って歩く道を選んだ。

しばらく無言で歩き続けると、わき道に柵が続いて、中には白い建物がそびえたっていた。

「学校は無事みたいね」

「ケナーさんの母校ですよね?」

「いい思い出はないけどね」

ケナーはそう言ってから、薄汚れた学校をしばらく見つめていた。
メアリーは、ケナーが連日聞かせてくれる昔話の舞台を見て、善し悪し関係なく思い出は思い出なのだなと思った。

それから思い出したようにケナーが振り向いた。
「病院に行かないと」
「ええ?」

小走りのケナーがわき道に逸れていくと、小さな診療所がそこにはあった。

「まだ、あったんだ」

メアリーが追いついた頃には、ケナーは診療所の中に姿を消していた。
「もー、トマスと同じで自由人ね・・・」

それからメアリーが30分位うろついていると、ようやくケナーが出てくる。

「急にどうしたんですか?」

「戦時中、かくまってもらったり色々お世話になったのよ。入院費もつけてもらってたし」

「な、なるほど・・・」
急に病院とか言い出すものだから何事かと思ったが、そういうことか。

「・・・受け取ってもらえなかったけどね」
ケナーは医者がわざと忘れたフリをしているのだろうと言って、いつか何か返しに来ると宣言した。


二人は、修復された家々を見て、放置された廃墟を見た後、枯れ木の並ぶ道にさしかかった。

「変わってない・・・」

そこは以前復旧されず、それどころか瓦礫の貯め場にされている土地だった。

ケナーがそこに突っ込んでいったので、メアリーも不安を半分抱きつつ後につく。

潰れた犬小屋が転がっている前で、ケナーが屈む。
中に骨と思しきものが見えて、メアリーが小さな悲鳴を上げた。

メアリーが辺りを見ると、そこにあるのは確かに自分達の世界の物なのに、まるで別の何かが広がっているように見えた。
今、ケナーが同じ光景を見て、同じ感覚になっていただろうと思った。

「酷い・・・」

「そうね・・・だけど私たちが、戦争に助長し、参加していたのも事実。
 私たちは変わらなきゃいけないけど、忘れてもいけない」

ケナーはそういいながら、瓦礫のない土に犬の骨を埋めて、目を瞑った。

「知っている犬だったんですか?」

「・・・前に話した、保護した子犬の、母犬ね。このまま残ってたのが、良いか悪いか・・・」

誰にも弔われないような命は幾つも犠牲になった、とケナーは言った。

「だけど、こうしている間にも、トマス達はアームヘッドの開発を・・・」

「そうね、こういう運命に生まれてしまった以上、私たちは戦いを止める為の戦いを続けるしかないのかもね」

ケナーが、服にかかった土を掃い、道に戻っていく。
メアリーも遅れて後を追う。

「ケナーさん、もう戦わないって」

「撤回するわ。私は傷つけたくなくて逃げたんじゃない、傷つきたくないから逃げてたのよ」

メアリーには、やはりケナーの心情が良く分からなかったが、
今、さっきの奇妙な光景、感覚から、何か見出したのかもしれないと思った。



二人が歩みを進めながら、軽い思い出話を続けていると、ようやくデパート前にたどり着いた。

「・・・しっかし、どうしてこのデパートに決めたの?近場のお店だって教えたのに」
ケナーが今になって可笑しそうに笑った。

「あー、いや、すいません・・・」

「いいのよ、いずれは来るつもりだったから。ここに来る時はいつも、母と一緒だった」

その言葉を聞いてメアリーは、ケナーが喜んでるのか怒っているのか悲しんでいるのか分からなかった。


その時である。


バウバウバウッ!

大きな鳴き声が聞こえて、ケナーが見ると、
デパート脇の歩道から、痩せこけた犬が走ってきた。

首に縄をつけたそれはまさしく飼い犬であったが、ケナーには見覚えがあった。

「もう!駄目じゃないクッキー!」

次に女性の大声が聞こえて、後から犬を追って現れた。

すぐさま追いつくと、縄を掴んで、ケナーの足に引っついていた老犬を剥がす。

女性が謝ろうとして、ケナーの顔を見上げた瞬間、時が止まった。


「・・・・・・ケナー・・・ケナー・ポマレリ!?」

彼女が目を丸くして言う。


「・・・ケイト!?」

ケナーは、かつてのクラスメイトの名前を呼んだ。

「ケナー!生きていたのね?ずっと探してたのよ!」
クラスメイトは、あまりの興奮で、奇妙な言葉をかけてきた。
ケナーも、突然の事に、どう対処していいか分からなかった。

「私を探していた?どうして?」

「見てよこの子!あなたの落し物・・・・・・バッグに入ってた、子犬ちゃんよ」

彼女が、ちょっと年増風に、あっさり言うので、ケナーは唖然とした。


「バッグ・・・子犬!生きていたの!?」


「あなたがいつになっても取りに来ないから・・・・・・ビスケットのお礼と言っちゃなんだけど、
 私が面倒見ておいたのよ。名前は分からなかったから、クッキーって付けちゃったわ。
 でも驚きね。子犬の時以来会わなかったのに、ケナーのこと、覚えてるみたい」


ケイトが言うので、ケナーにふとした記憶が蘇った。
そういえば、無理して子犬を助けたり、彼女と家族の食料に数少ないビスケットを分けてあげたこともあったっけ。
ケナーが助けた者同士が、助け合っていたのだ。
そう思うと、嬉しくもあって、なんだか泣きそうにもなった。


「あ!そうだケナー、今日は・・・」

ケイトが言おうとした時、急に拍手と歓声が起こって、遮られた。

気づけば、デパート前のバス停に、人だかりが出来ている。

それも、バスに乗る客の量ではなかった。

停止したバスのドアが開放された。

同時に、ケイトがケナーの服を引っ張り、人ごみの中に突っ込んでいく。

バスの中で、幾つかの人影が動いた。

そして、乗降口の前に飛び出したケナーは、心臓が止まりそうになった。


「・・・ボールド・・・」

死んだはずの想い人は確かにそこにいた。


「久しぶり、ケナー」

ボールドは、そうとだけ言うと、ケナーを胸に抱き寄せた。

群集がざわめきだした頃、ケナーはふと我に返ったが、すぐに頭は真っ白だ。


「どういうこと?どういうことなの?」


「死んでなかったんだよ俺は。俺たちは。
 ・・・アイツとの戦いで、俺の体はこの通りだ」

ボールドはそう言って、襟を捲って首を見せると、一部だけでも凄まじい火傷の痕が見えた。

「全身火傷で限界ギリギリの所を、帝国軍に救われた。
 治療までしてもらって、後は優雅な捕虜生活さ。
 ・・・・・・もちろん、酷く窮屈だったけどね」

ボールドが笑うと、ケナーは涙目のまま、何を言っていいか分からなくなったが、浮かんだ言葉が口から出た。


「トップは?トップはどうなったの?」


「トップは・・・・・・・・・今、病院にいる。

 ・・・・・・・・・食いすぎでな!!」


その言葉を聞いて、ケナーは額をボールドの肩に押し付ける。
それからボールドは、トップはあの時に複雑骨折していたが、ここ数年で回復したと続けた。

ケナーは無言のままそうしていたかったが、ボールドはケナーの肩を掴んで、少し離した。


「君に会いたい人はもう一人いるんだ」


バスからは老人が降りてきた。

ケナーは一瞬、誰だか分からなかったが、すぐに何かがこみ上げてきた。


「父さん・・・!!」


セルゲイ・ポマレリは、飛び込んできたケナーを、両腕で、しっかりと受け止めた。








その様子を、少し離れて、メアリーが眺めていた。

あの時の恩返し・・・・・・きちんと出来たよね。

デパートに背を向けて、歩き始めた。






”人間とは不思議だ 過去を美化し 比較した現在を嫌う そして次の未来を希望する”

ケナーのどこかで、リムーの守護者・ホズピタスが呟いた。


”過去とは忌まわしきもの 希望した未来は存在せず 見るべきは現在のみ”

”しかし・・・・・・今のは・・・・・・?”

”人間は冷血ではないのか?”

”恩を返す?
 我々がリムーにしたように?
 だが、今の我は・・・・・・・・・”


”これが・・・「リムーの意志」・・・?”


ホズピタスは延々と自問自答し続けた。

そして、ケナーの喜びを感じて、今は、自分の事を完全に忘れているだろうな、と思うと、
ホズピタスは、なんだか可笑しくなって、この世に生を受けてから初めて、笑った。
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by kozenicle | 2011-07-06 01:59 | ストーリー:デデバリィ | Comments(3)

Commented by nitro333lv2 at 2011-07-06 17:09
ども~
ブレジンの、「ガツガ」につぐ機体、ですね(何
こぜにさんの本領が発揮されることを楽しみにしています(え

それにしても、メトロノームメンバーがずいぶんと生きてましたね。一部あれこんな奴いたっけみたいな(何
トップ君「ボリボリ→ぶりb(死

失礼しましたw
Commented by hour_rain at 2011-07-07 21:02
どうもこんばんはー。
第45話と合わせてこちらも読ませていただきました。

とりあえず、ブレジン先輩の新機体に期待ですw
きっともう「かませ」だなんて言わせないはず(笑

あと、トップ君たち懐かしいなぁ、と細々と感じました(何
時が流れるのは早いですね(ぇ

ではー。。。
Commented by kozenicle at 2011-07-09 14:51
コメントどうもです。

>>ニトロさん
ブレジンのは新機体と言っても、数年前に作ったものなので(ry
ここまで長引くと作品の感じがだいぶ別物ですw
メトロノームメンバー再登場も最初から計画ありましたがここまで長(ry
ボリボリ。トm(ry ブリブリ。トpp(ry

>>シグレさん
ブレジンの新機体は数年前に(ry
あれからもう2,3年も経ったのか・・・酷いストだ・・・

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