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♪ばいばーいばびろーん
いい曲だわな、ありゃ(何








今から幾年くらい前だっただろうか。

リズ連邦とアプルーエ軍の連合基地にて。


”私は、ゴネドの者として本当にリムー族を断たなければならないのか?”
一人の男は疑問に囚われていた。
その男はアプルーエ国軍に所属していた。そしてゴネド族の血を引いている。
ゴネドとリムーの因縁についても嫌というほど教えられた。
教えられるたび、本当にそれが正しい事なのかと疑問に思っていた。

「どうした?そんな顔をして」
更衣室から、パイロットスーツに着替えた連邦軍のダガピッツアが話しかけてきた。

ダガピッツアとは知り合って数日で仲良くなった。何かに引きつけられるようだった。
男は気づいていた。おそらくこのダガピッツアがリムー族の末裔なのだろうと。
そうでなければ会った時に奇妙な感覚などを感じはしないだろう。

「いや、何でもない。大丈夫だ」
男は明るげに返した。

「何か悩みでも?」
ダガピッツアはまだ疑っているようだった。

「本当に平気だよ」
男は穏やかに言った。

「俺なんかは毎日妙な夢を見る。鱗だらけの魚が暗がりでぼんやりこっちを見ているのさ」
ダガピッツアは冗談のように言った。

男はそれが冗談でないことも分かる。
自分にも、鉄色の蟹男がしょっちゅう夢に出てくるからだ。
しかし、彼らの正体をダガピッツアに教えてしまう事で一線を越えるのが怖かった。
だから今は語れない。

「・・・俺は先にヴァントーズで出撃する。後でついて来てくれ」
ダガピッツアはそう言い、ドアを開ける。

「ああ、了解だダガピッツア」
男は返し、片手を上げた。
ダガピッツアも軽く手を振り、ドアを閉めた。


”やはり私には、あの男を消す事など出来ない・・・”
男は心の中で呟き、パイロットスーツに身を包んだ。




デデバル市上空、ヴァントーズと後続のバンシールの2機は襲撃を始めた。
対しブートンタイプが2機、こちらへ向かってくる。

「1機のブートンはドデカい大砲を装備しているようだ、分散して戦うぞ」
ヴァントーズに乗ったダガピッツアが言った。

「了解した、急ごう」
男は、緑の目をしたバンシールを駆り空を飛び回る。

1機のブートンがヴァントーズに接近する。
その機体は赤く、角のような物を付けている。何よりジャイアントカノンを体部に装着していた。
それゆえに通常のものよりスピードは3割しか出ない様だ。

「遅い!」
ヴァントーズが赤ブートンに突進し、タックルを仕掛ける。
赤ブートンはぶつかってすぐ、あらぬ方向に大砲をぶっ放した。

反動で2機の高度は下がり、ヴァントーズは建物を壊し墜落したようだ。


男のバンシールは青ブートンより上に移動し、特殊な金属棒を地上に向かって投げる。
それを見たブートンはこちらに向かい一直線に飛んでくる。

金属棒が地面に刺さり、また1本がブートンに刺さる。
ブートンはそれを無視して殴りかかろうと構えた。

その時眩い電光が走り、強力な電撃が金属棒を通ってブートンを焼いた。

ブートンは雷でも食らったかのように落ちたが、少しの間を置いて立ち上がり、ヴァントーズに向かい飛び出した。

「む!?」
バンシールは地面に向かって急降下する。
地上に近づいた時巨大な弾がバンシールをかすめ、背後で爆発した。

赤いブートンがこちらに向き立ちはだかっていた。
肥大化した大砲が通常のブートンとの圧倒的違いを感じさせる。

バンシールは着地するとビームを連射した。
赤いブートンはそれを腕で防ぎ、大砲を発射する。
それらはバンシールをそれて、次々に家や建物を破壊した。

「あのパイロットは何も考えていないのか?」
男は疑問に思った。
どうやら砲台のコントロールが上手くいっていないようである。

赤いブートンは尚も大砲を発射し続け町を壊してしまったが、
すべてが外れる訳はなくバンシールの機体を形が崩れるほどに破壊した。
弾切れになると大砲を切り離し、バンシールに向かいそれを放り投げた。

「!?」
それがバンシールに直撃し、男のバンシールは民家に向かい倒れそうになった。
危ない所で地面に手を着き、衝撃で屋根の一部が取れ、民家を覗く形になった。

民家の中をカメラが映した時、男を奇妙な感覚が襲った。
ダガピッツアの時と同じだ。

崩れかけた家の中には、小さな女の子とそれを庇うようにして抱く女性。

女性はこちらを見上げ、睨む。
少し経って女性はこちらに向かって、何かを叫んでいた。

”この女性はリムーの末裔なのか?・・・何か言っているようだが聞こえない・・・私がゴネドの者である事を感じ取ったのか・・・だとしたら消すべきなのか?私は先祖の因縁の為に殺すのか?戦いに巻き込んだように見せかけて、故意に民間人を殺すのか?・・・今の私には、とても出来ない・・・!”

男が迷い、腕を止める。
その時赤いブートンが、傷ついたバンシールを後ろから蹴った。
倒れたバンシールはその民家を下敷きにしたが、僅かな隙間がありその2人を潰さずに済んだ。

バンシールの胸部の下、気を失った女性と少女が倒れている。
赤いブートンはまだバンシールを攻撃している。

”まずいな・・・ここから動いてはこの2人が攻撃を受けてしまう・・・反撃の方法は・・・”

バンシールの背中の柱に電光が走り、赤いブートンの後ろに刺さっていた金属棒に向かって電撃を放った。
再びエレクトドメインが発動し、赤いブートンを巻き込み強力な電撃の輪ができる。

ブートンを倒し、男のバンシールは再び飛びたった。
すでにヴァントーズは居なくなっている。敵も居なく、崩壊した町だけが広がっていた。


やがて男のバンシールもエネルギーが果て、すぐに墜落してしまった。
もはや、故郷に帰る術もないだろう・・・

男は諦め、バンシールから降りた。
スーツを敵軍と分からないようにオイルで汚した後、荒れた町を歩いた。
「私は何のために戦ったんだ?」
した事といえば敵軍の町を襲撃し、アームヘッドを倒し、敵の2人の民間人を助けたくらいだ。
あちこちが壊れており、自分達が壊したのだと思うと、余計に人生の目的が分からなくなった。

残った建物の前に沢山の人がたむろしている。
彼らの家は自分らの戦いで壊れたのだろう。

男は人々に見つからないように歩いていると、小さな少女を見つけた。
先ほど守られていた女の子だろう。

男にはその子がとても可哀想に思えて、思わず手を差し伸べた。
少女は気づいていたようだったが、うずくまったまま相手にしなかった。

それもそうだろう。自分は身勝手な大人で、罪の無い子供を戦いに巻き込んだのだから。
しかしこのまま放って置くことはとても出来ない。
男は周りを見渡した。


「君は、アプルーエのパイロットだね?」
すぐ後ろから声が聞こえた。

男は振り向くと、そこには奇怪なマスクを付けた帝国軍服の人が立っていた。
男は驚き慌てたが、黙っている訳にもいかず口を開いた。
「ああ、そうだ。私は敵だ・・・私はどうなろうと構わない、覚悟はある。
こんなことを頼むのはおかしいと思うだろうが、この女の子を安全な所へ連れて行ってくれないか」
男は半分やけになって言った。

「君は変わった人だ」
マスクの者が言い、女の子の手を引いて、そのまま去るような素振りを見せた。
途中で足を止める。

「君も来てくれ。他人に見つからないように」

「私を捕らえないのか?逃げるかもしれないぞ」

「逃げたら捕らえるさ」

男はマスクの者についていくことしか出来なかった。
男は武器を持っていない。これ以上足掻くことは出来ない。

そのまま研究施設のような建物に連れ込まれた。
裏口から入り、所長室に連れて行かれる。

「この少女の事は、工場長にまかせる」
マスクの者は言った。

男は静かにうなずいた。他にすることもない。

「さて君は・・・捕虜だ。殺しも逃がしもしない」
マスクの者は表情の分からない声で言った。

「分かりました」
男はそう言うしかない。

「・・・とも思ったが、君の腕は一流そうだから、ここのテストパイロットになってもらおうか」
マスクの者は付け足すように言った。

「!?」

「何、この研究所は本部からも大して注目されていない。適当な言い訳をしてごまかせば問題無いだろう」

「しかし、私は敵ですし、それは私に反乱や脱走のチャンスを与えるようなものじゃ・・・!?」
男はおかしな提案に驚き、言った。

「そうなれば君を殺すだろう。それに、ここのパイロットになるという事は、かつての同胞と戦う覚悟が必要になるんだ」
マスクの者は言った。

「・・・」
男は少し黙った。

「これは強制だ。選択権は与えない」
マスクの者は後を向いて、そう言った。

「あなたは、変わった人だ」
男は呟いた。

「このマスクを見て気づいていただろう?」
マスクの者はそう返した。




それから現在までもずっと、男はそこのテストパイロットである。

by kozenicle | 2009-10-04 17:21 | ストーリー:デデバリィ

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