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鉄っチャンさん・・・
寄せて還す波の音に、数えた命・・・



そして、リムー族とお互いに守護する生物群、それに対する狩猟民族ゴネド族の闘争が始まった。

ゴネドの一団は、リムーの居住地に定期的に狩人を送り、強引に狩猟を繰り返していた。
対するリムー側は、守護者とその配下の軍団で狩人を追い払い、
ベドニーゼ率いる鳥の群はゴネドの監視に回り、一枚上手の戦いを見せた。

しかし有利に思われたリムーは、監視の見てきた事実に慄くこととなった。
ゴネド族の村は幾つかあり、そこから分担して襲い来る……
だけでなく、それらの村は移動し、次第にリムーの地へと近づいていると言うのだ。

狩人の送られる頻度は次第に高まり、苦戦を強いられるリムー族。
ゴネド族が、超少数民族であるリムー族を下すのはたやすいはずだった。

最大の障害は、リムーの守護者の、六匹のかいぶつである。
彼らは、ゴネドの人間を上回る知略で、物量で勝る生物群を巧みに操り、
狩人たちを殺さないまでも、幾度も戦うにつれ戦意を削いでいくほどの戦いぶりだった。
その上、六匹には特殊な能力さえも芽生え始めたらしく、
ベドニーゼは”鷹の目”広範囲の視界、ホズピタスは”虫の知らせ”軽度の予知能力といったものが発現した。
それが何によるものかは分からなかったが、彼らはリムーによるものと信じて疑わなかった。

一進一退の攻防は続き、遂にゴネド族はリムー居住地の離れに村を集結させ、完全にそこで構えた。
ホズピタスの指揮で、まずリムー側から攻めていく事となり、生物群が押しかける。

ゴネドの集結した戦いは熾烈を極め、遂にはデデバリィとベドニーゼが、
槍兵たちに囲まれ窮地に立たされる。
その時、彼らを救ったのはある女性の悲鳴であった。

「ソババ様が!?」
救援の為に散っていく兵たち。しかし叫んだ本人は、後ろの茂みから這い出てきた。

「ゴーン……こんなに傷つけて……こんなことを、続けるべきではないのよ」
他のゴネド族とは違い、鮮やかな宝石で着飾った女性。
デデバリィとベドニーゼには、彼女が何と言ったか分からなかったが、救われた事は確かに分かっていた。

「早く行こう姉さん、ここにいたらまた、ゴーン様に怒られる」
その後ろから現れた男は、狩人の武装をしていたが、二匹への敵意は見られなかった。

そして女性は、唖然とするデデバリィの傷口をいたわる様にした後、その場からそそくさと去った。
こうしてその日の戦いは終着した。


「どうした、ソババ?怪我一つ無いのに騒ぎおって、兵の気を削ぐなとあれほど言ったろう!!」
ゴーン・ドゥは一番大きな建物の玉座で、宝石を身に着けた女性を叱った。

「ごめんなさい、薬草を摘んでたら棘が刺さって」
ソババが言って指を見せる。

「全く……私の妻とあろうものが、情けない!」
ゴーンは呆れ半分に言って壷の酒を飲んだ。

「お前でなくとも、鞍替えしたっていいんだぞ?
 そうなる時には、お前と、同じ血を引く者達にも、覚悟を決めてもらう事になるがな」
「それだけはお許しを……」
すがるソババを、ゴーンが引き寄せた。


一方、リムー居住区では、一人の男が引きずり出されていた。
村の外から侵入したそいつは、迎撃を受けている所をデデバリィに見つけられ、
リムーの元へと案内されていた。

「あなたが、リムー族の長……」
武器一つ持たない、侵入した男が言う。

「同い年くらいかな」
テル・リムーが言うと、男が地に膝をついた。

「お願いです、どうか、どうか我らの長を、ゴーン・ドゥを、早く討ち取ってください!」
そう叫んで、地に頭をつける。

「なんだって?」
リムーが駆け寄る。

「近づいては駄目だ、これは罠だ!」
ホズピタスが、角でリムーを制す。

「今日、俺とベドニーゼを救った者の、仲間と思しき男だ」
デデバリィが言う。

「彼らを救ったって?そうなのかい?」
リムーが三叉の角をどけながら問う。

「ええ、私と、ゴーンの妻にされている姉は、この大規模な狩りに反対でした。
 貴方がたと同じく、それらの行動がやがて破滅に繋がると、信じていたからです」
ソババの弟が、思わず頭を上げて言った。

「ちいっ、動くな!」
ホズピタスが牽制しようと構える。

「ゴネドの狩人も、全てが、この狩りに賛成しているわけではありません。
 多くの者が、ゴーン・ドゥの制裁を恐れて、逆らえずにいるだけです。
 姉も、たまらず獣と鳥の方を救ってしまいましたが、妻であろうとも、下手をすれば一族ごと制裁を受けます」
ソババの弟は涙をこぼした。

「それなのに、ここまで来ちまうとは、相当の覚悟だねえ?」
テル・リムーが少し意地悪げに言った。

「僕一人で歯向かって勝てる相手じゃない、僕に出来るのは、唯一対抗できる貴方たちを応援する位です。
 貴方たちの力なら、願いの強さなら、必ず打ち倒せるはずです。
 これが、ゴネド居住区の現在の詳細地図です。お役に立てばと思い持って参りました」
ソババの弟が両手渡しするのを見て、リムーは受け取った。

「守護者の半分は信じてないようだが、俺は信じとくよ。
 そのまま帰るわけにも、ここで泊まってく訳にもいかないだろ?
 ベドニーゼ、いかにも突然襲われて戦ってましたー!風な感じで送ってあげなさい」

リムーの配慮をソババの弟は喜び、そのあとベドニーゼに乗りゴネドの村で振り落とされた。

「リムーよ、これで良かったのか?
 奴は地図を書けるようだった、此方の状況を把握しに来たのかもしれんぞ」
ホズピタスが怒り気味に言う。

「ホズ、向こうの人間が信用ならないのは確かだ。
 けどな、人間全部が全部、悪者とは思って欲しくないんだよ」



戦いの波は止まる事を知らなかった。
拮抗し、もはや単なる体力の削りあいになっている。
こうなっては、どちらかが隙につけこみ、突破口を開いて一気にかたをつけるしかない。
その為のスパイが何処に潜んでいるか、両軍とも探っている状況だった。

デデバリィとガモゲドンが、リムー居住区周辺の見回りを始める。
二匹は気が合うらしく、最近は相棒のように同行する事が増えている。

「異常無しだな」
デデバリィが目を緑に光らせる。

「これって、こっそり見てる敵か、敵と話してる仲間を追っ払えばいいんでしょ?
 そんなの、いるわけないと思わない?」
ガモゲドンが、凶悪な歯の並ぶ口で大あくびする。

「全くだな。ホズピタスも神経質だよ。
 こっちの兵隊さんにはあっちの人間の話は通じないし、
 喋れるかもしれない賢い守護者の仲間たちは、裏切るはずが無い……」



ベドニーゼはオウムのように流暢に人間語を話していた。

「あイタタッ!ボクはそんな、スパイなんかじゃないよお!クケーッ!」
剣を持った狩人に突かれて、鳥が騒いだ。

「コイツ喋ったぞ?」
「諜報の為に練習しやがったんだ!」
「思えばしょっちゅう村の上飛んでたよな!」
「フン落としやがって!!」
「くっそ!こいつめ!」

ゴネドの兵がベドニーゼをいじめていると、ゴーン・ドゥが現れた。

「そこまでだ。
 ソババが、そいつを飼ってこっちのスパイにしようって。
 全く頭の良い奥さんだよな。お前らと違って」

「は、はい、その通りです!」
狩人兵が去っていくと、ソババがベドニーゼに近づいた。
ゴーンは横目でそれを見たあと、興味なさげに離れていく。

「一体どういうつもりなの?」

「ケケッ、アナタにお礼を言いに来たんですよォ、
 弟さんから話聞いて、助けないといけないってエ。
 ボクらが勝っても、虫のホズピタスは、人間を皆殺しにするつもりですよぅ」
ベドニーゼが甲高い声で言う。

「ゴーンを……仕留めれば終わるって聞いたのね?
 それは仕方ないの、だけれど……虫の方がゴネドを許してくれないという事?」
ソババは怪鳥の襲撃を疑うことなく問い続ける。

「ホズは人間が嫌いで仕方ないみたいだ、ボクを助けてくれた、アナタもいるのにぃ……
 彼は今、リムーの為に誰より頑張ってるし、ボクじゃ彼を止められない」
ベドニーゼが言った後、目を見開いた。


「へっ、面白い話を聞かせてもらったぞ。
 ……「虫」が奴らの核なんだな?
 ありがとうよ鳥野郎!!命までは取らねえでやる!」

去ったと思われた、ゴーン・ドゥの姿があった。
ソババが、力なく座り込む。
ゴーンの刃が、ベドニーゼの喉元を掠る。

「逃げて!」

ソババが叫ぶ。
死を恐れたベドニーゼが、思い切り後ろに飛んで、高い茂みの壁に埋もれた。


「まあ当然、俺が死ねば、この狩りは終わるよな?」
ゴーン・ドゥが剣を捨てて、ソババの髪を掴む。

「盗み聞きなんて、どうかと思うわ……?」
全て聞かれていた事が分かったので、ソババは反抗的な態度をとった。

「俺の嫁には、ふさわしい奴が一人もいねぇみたいだな。
 恒例行事だ。
 この戦いが終わったら、お前の血を引く者を目の前で殺してやる。
 全員だ。俺との子も。それまで、祭りを楽しみに眠ってな」

怒った後笑うゴーンと泣き叫ぶソババを見て、ベドニーゼが追おうとする。
茂みに羽根がかかって動けない。
ソババが、近寄らないように手で制する仕草を見せた。
それでも、ゴーンにひきずられて遠くなる。



「おーい、デデバリィ、どこー?」
はぐれたガモゲドンが森を彷徨うと、巨大な茂みから鳥の尾が飛び出ていた。

「ベドニーゼ!出られなくなっちゃったんだね、今助ける!!」
ガモゲドンが尾っぽをくわえて引っ張る。

「なんだァ!?やめろォ!?」
嘆くベドニーゼは、茂みの後ろに引かれていく。

「敵の臭いがする……早く逃げなきゃ、ベドニーゼ!」
ガモゲドンが思い切り引っ張った。

「邪魔をするなァ!!!!」

どうにもならない怒りで、ベドニーゼが嘴の突きを放つ。
その時、茂みの後ろから飛び出て、その突きが何かに当たったのに気がついた。
それは、助けようとしたガモゲドンの舌にひっかかり、
ちぎれるかと思うほど引っ張っている状態になっていたのである。

あまりの激痛に、声も出ず、あんぐりと口を開けたままになるガモゲドン。

「が、ガモゲドン……」


「ガモゲドン!こんなところまで来て!敵に襲撃と勘違いされたら……」
そこに現れたのは、合流しようとしていた、デデバリィであった。

ベドニーゼが、ガモゲドンに攻撃した現場をここに見て、疾風のごとく駆け寄る。

「……ベドニーゼ!!
 どうしてここに?どうしてこんな?
 守護者に裏切者はいない、リムーを守る同志、信じてたんだぞ!?」
デデバリィが悲痛な声で言って、爪を構えた。

「違う!そんな!邪魔したから!」
弁解しようとするベドニーゼ。
確かな言葉が出る前に、デデバリィの爪は動いていた。

鈍い音が響く。
ベドニーゼの嘴が、割れる。
デデバリィの片手の爪先も、砕けていた。


「何をしているデデバリィ!!!」

そこへ飛んできたのはホズピタス。
突進して獣を突き飛ばした。

後ろから、ゾムエイルとシュビツェも現れ、この悲惨な現場を見る。


「デデバリィ、貴様がここで、守護者を二体も……!?
 人間に助けられただと?どうもおかしいと思っていたぞ!!
 この、裏切者め!!」

「違うホズピタス、聞いてくれ!勘違いだ、ベドニーゼ…!…」

デデバリィの弁解も虚しく、角の猛攻が始まる。

ガモゲドンは衝撃で昏倒し、ベドニーゼも嘴が折れて喋れず、
代弁して止められる者もいなかった……。


そして。

この間に、ゴーン・ドゥは、ベドニーゼの情報を元に、虫の群だけへの攻撃の準備をしていた。

今までの襲い方とは異なり、虫の住む地域だけを囲み、集中攻撃を仕掛けるのだ。
最後の戦いに備えていた事もあり準備は万端。その作戦は早急に開始されていた。

リムーの守護者達が、敵の移動に気づき、リムー居住区に帰った頃にはもう遅い。

リーダーを失った虫の群れが、集中した攻撃を受けた為に、まとまりを失って散り散りに逃げた。

あっという間に、リムー族を守っていた一つの壁が、消えた。



「デデバリィ!!全て、全て貴様のせいだぞ!!」
怒りの叫びを上げるホズピタス。角はデデバリィの喉に押し付けられた。

「やめろホズピタス!!デデバリィの話を聞けよ!!」
リムーも止めようとするが、群れを失ったホズピタスは冷静さを失っていた。

「リムー!我は、我は何を信じて良いのか分からん!
 真実を知る者は、何も語れん、裏切者は、誤解と言い張る、我の群れは……」

「俺は、ベドニーゼを傷つけるつもりはなかったんだ、
 だけど、ガモゲドンを襲ってたから……」
デデバリィが弱弱しい声で言う。

「デデバリィ!!貴様、ベドニーゼが裏切ったと?
 そんなはずがあるか!!彼の情報でどれだけ我らが戦えたと思っている?
 だが貴様とガモゲドンは自分の群れの事だけ……」
ホズピタスには最早周りが見えていなかった。
角はデデバリィにさらに食い込む。

「いい加減にしろ!!俺はこんなこと望んじゃいない!!
 守ろうと思っていた、群れが一つ、散らばった!
 俺だって、怒ってるさ、だけど、喧嘩してる場合じゃないだろ?」
テル・リムーが叫ぶ。

「気の毒だがホズピタス。他の群れと、このリムー族を守護するのが使命だ。
 仲間割れしていては、余計な犠牲が出るぞ」
シュビツェが言うと、ホズはそっちに角を向けた。

「仲間割れだと!?デデバリィはもう我らの……」

「確証が無い。デデバリィも有無を言わず戦わせる」
魚のゾムエイルが、極めて冷静に会話を切る。

もはや喋れない、ガモゲドンとベドニーゼは、呻き声で答える。


先日の戦果に、気を良くしたゴーン・ドゥは、今日の襲撃がリムー壊滅への決定打になるだろうと、確信していた。

(下)に続く

by kozenicle | 2012-01-07 14:58 | ストーリー:デデバリィ

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