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予期せぬ再会。
そして二つの思いが再び激突する!








「アロイージ・・・・・・」

ケナーは、そこに居るはずの無い「弟」の姿を見て、呆然と立ち尽くしていた。



「・・・・・・どういうつもりだ・・・?・・・」
トマスは依然として、銃を向けたまま地面を踏みしめた。



「アロイージ!アロイージなんでしょう!?」

突然、吊るっていた糸が切れたように、よろめきながらもケナーはトマスに走り寄ろうとした。


「く、来るな!」
敵パイロット、いやホズピタスの調和者の、理解できない言動にトマスはしりごみした。


驚きの表情を浮かべるケナーが、トマスの頬に優しく触れた。
それに対しトマスが引き金を引く事など、出来るはずも無かった。


「・・・一体、あなたは何者なんです?」

「・・・覚えて・・・ないの・・・?」
一歩退いたケナーが、再び驚愕していた。


「私は、あなたの姉でしょ!?ケナー・ポマレリよ!
 そしてあなたは、アロイージ・ポマレリ!!」


ケナーはトマスの瞳をまっすぐに見つめていた。


「違う、僕はトマス・ボーリーだ!
 あなたの事なんか知らない!
 裏切りの同僚を撃ち、僕達を何度も殺そうとした、冷酷なあなたしか知らない!」

トマスの手からも拳銃が滑り落ちていた。


「いつまで経っても成長しない顔、あなたが弟でなかったら、一体なんだというの!?」


その言葉にトマスは妙な感覚に襲われた。
童顔だと周りから言われて育ってきたが、誰から言われてきたのか?
育ってきた時の事は?
育ての親から聞かされた「才能の代償」の話を思い出した。
育ての親?



”貴様も…
 …リムーの子孫と調和していたのか…”
 
その会話をさえぎったのはホズピタスの一声であった。

”知らなかったというのか…ホズピタス”

二匹の怪物の像が一瞬、二人の頭に浮かんだ。



”…お前の精神操作は危険すぎた 
 俺は、お前の調和者を助け トマスを守ろうとしていたんだ”


デデバリィがホズピタスを睨みつけていた。



”裏切者の貴様が…リムーを守ろうとしていたとはな”

ホズピタスが、驚いているのか嘲笑しているのか分からない声を上げた。


”何故だ……裏切者よ?”



「そして僕は知っている…
 …その冷酷なあなたは、ホズピタスの感情操作によって作られたものだと」

トマスは混乱しかけていたが、ただ確かな事を彼女に伝えようとした。



「…知っている…覚えているわ…何もかも……私が自ら、ホズピタスに身を渡した事も」


ケナーの様子が突然変わったように見えた。
しかし、制御されていた記憶、感情がすべて解き放たれた今、それは当たり前の事だった。



デデバリィは目の前の同士に向かって身構えた。

”俺も、復活した時はお前と昔の決着をつける事だけを考えていた…
 だが、最初の調和者…ゴネドの末裔ハミングに騙されて気づいたのだ…
 現代にて…俺たちが真にすべき事は「リムーの意思」を貫く事だと…”



”…あれを人間に騙されていたというのか?愚かな…”

ホズピタスが嘲笑した。



”お前は何故…リムーの子孫を利用してまで俺との決着を…”


”守護するべきはリムーのみ……子孫とはいえ所詮…単なる人間に過ぎない”


”…今のお前が その「敬愛する神」の名を傷つけているのだ!”


”リムーを傷つけたのは醜い人間だ…デデバリィ!”


爪と角を交差させる、獣と虫の像。


”それがリムーの意思に反しているというのだ!ホズピタス!”




”そうまでして人間を庇うか・・・何故だ?” 




”これが「リムーの意思」だからだ”



”貴様の言うリムーの意思というのは、子孫を守れというものか!!”





”違う ホズピタス…

 …お前のように人間全てを敵として見るなと…

  人間の中にも守るべき、心優しき者が居るのだと…”



”・・・・・・・・・”

ホズピタスはゆっくりと退いた。





”…それが本当なら、貴様はリムーを裏切ってはいない……
 
 だが……! 我々「同士」たちを裏切った……!”


ホズピタスの目には再び復讐の炎が灯っていた。



”なぜ解らない?ホズピタス 
 人間を手にかけることが、俺たち守護者の目的では無かったはずだ”



”ならばデデバリィ!人間を庇う為なら、どれだけの命が犠牲になっても良いのか!
 同じくリムーを守る者に、牙を剥いても良いというのか!?”


”ホズピタス!お前はその決着をつける為に、どれだけの人間を犠牲にしてきたか、解っているのか!?”



叫ぶ二つの意思は、決着をつけようとしていた。



”当然の帰結だ!!
 人間どもは……リムーを殺すためだけに、幾百もの我の「同士」を!「友」を!「家族」を!根絶やしにしたのだ!
 それもデデバリィ、貴様がけしかけた事によってな!!”


”……何を言っている?”


デデバリィが突然、困惑の色を見せた。



”この期に及んでその態度か!この…”


”お前の言う「裏切り」とは、
 俺が、ゴネドの人間を庇う為に…お前と戦ったことを…指しているんじゃないのか?”


獣に向かっていた、するどい槍のような角が、止まった。


”…違う!それだけではない!
 我の言うことが解らぬか?裏切者がけしかけた事によって、我の大勢の仲間が捕まり…殺されたのだ!”


ホズピタスの悲痛な声が響いた。


”……その裏切者は、俺ではない”

デデバリィは静かに言った。




”なんだと!?貴様……”

ホズピタスは再び襲い掛かろうとしていた。



”待て、ホズピタス”

デデバリィが爪を突きつける。




”おかしいと思わないか?
 …長きに渡った争いの原因に勘違いがあった…
 何者かが、俺とお前をぶつけようと……別の裏切りを作ったとしか思えない”



”……誰の謀略だと言うのだ?”

ホズピタスの動きが止まった。



”ようやく俺の話を聞く気になったか…
 …俺とお前を仲間割れさせて得する者……つまりゴネド族に味方する者…
 そしてリムーの意思を知っていながらそれを利用した……リムーの守護者の一匹…
 「ベドニーゼ」だ……”

碧に輝く瞳が、甲虫を見つめた。



”……何を根拠に……”

再び鋭角な角を向けた。


”昔…俺がベドニーゼのクチバシをへし折った時…
 お前達は俺の言い分を信じはしなかった…
 …あの時から、いやずっと以前から俺たちは騙されていたのさ
 奴は間違いなくゴネド族と内通していた、優れた頭脳・全てを見通す鷹の目・飛行能力…
 俺たちに無い、全てを利用して俺たちを騙した”


”その推測……何度聞いた事か…”




”そして現在……ゴネドの末裔・アリエールに、自ら進んで協力している!
 気づいていなかったか?ホズピタス……

 アリエール…いやベドニーゼは確実に、トマスとお前の調和者を殺そうとしていた!”


爪が角を弾いて、二匹の顔が近づいた。



”…デデバリィ…貴様は昔からそうだ…もっともらしい弁論で…我らの仲を掻き乱す…”


”目を覚ませ!ホズピタス!”



その時、獣が大きく宙に舞った。
ホズピタスが巨大な角で放り投げたのだ。

何も無い黒い空間、デデバリィは体を叩きつけた。




”…ベドニーゼはいつも我々と行動を共にしていた!貴様と違ってな!

 昔から人間の味方ばかりしていた裏切者(おまえ)を、今更信じろというのか?”




”そうだ、ホズピタス……お前は―俺たちは変わらなければならない…
 リムーを再び「守護」する者として……”




”・・・・・・”



ホズピタスの像が、暗い空間から消え去った。


そしてケナーの意識が、まるで眠りから醒めたかのように、はっきりとしたものになった。



トマスは思い出していた。
先ほどアリエールに言われた「自分がトマス・ボーリーではない」という事。



突然、ケナー・ポマレリが口を押さえ、地面に膝を着いた。

その目からは大粒の涙が流れ落ちていた。

蘇る感覚は罪悪感ばかりだった。




「……これが、君の求めた決着の代償だよ、ホズピタス…」



トマスは、沈みゆく紅の夕日―復讐の炎が消えていく瞳を見上げ、呟いた。

by kozenicle | 2010-10-30 15:39 | ストーリー:デデバリィ

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