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激しい戦いの後、残ったものは?








えぐられた大地が紅に染まっていた。
半日以上に渡った試作機たちの祭りは、リズ連邦側の撤退という形で幕を閉じた。


「・・・・・・ガモゲ・・・」
ブレジン・ニールファットは救護室の暖かいベッドの中で目覚めた。
全身がヒリヒリと痛む。


「お目覚め、ね」
メアリーが、部屋の隅の椅子から呟いた。

「おう、見たか!オレの活躍!」
ブレジンが上半身を起こして声を上げた。しかし皮膚の痛みに耐え切れず、再び体を倒した。

「・・・・・・」

「わかった、わかったオレはかなりの強運の持ち主なだけだよ」

「今回は軽い火傷で済んだから良いですけど、いい加減にしないと死にますよ?」
メアリーが棚からクリームを取り出し、少し離れたテーブルに置いた。

「なんだと!偉そうに!」
ブレジンが片手でテーブルを引き寄せ、奪い取るように軟膏の入れ物を握った。



「・・・・・・それで、トマスとゴエンは?」



「・・・・・・トマスは・・・まだ分からないの・・・機体すら見つからなかったわ・・・
 ・・・ゴエンは・・・・・・」
メアリーはブレジンから、ゆっくりと目を逸らした。


「・・・そうか・・・・・・」
ブレジンは窓を見やった。

「悲しくないの?」

「初めっから分かりきっていた事、だぜ」
ブレジンがうつむき気味に言った。

「・・・友達、だったんでしょう?」

「確かに親しい知り合いだったさ。だけどアイツは、敵だぜ。
 リズ連邦よりも恐ろしい奴だ。アイツはオレの命さえも何とも思っちゃ居なかったんだ。
 ・・・だから、これで良かったのかもしれない」
薄れた意識の中で聞いた言葉が、ブレジンの頭に響いていた。

「本当にそう思って?」
メアリーがベッドの脇の椅子に腰掛けた。

「・・・ああ・・・そう思っとかないと、これから先も戦っていけないぜ・・・
 ・・・・・・ただ一つ残念なのは、ゴエンを倒した奴がもっと悪質だって事だ」
ブレジンが、顔に軟膏を塗りながら言った。

「トメラメル・・・あの機体はあの後、自らの隊長の機体さえも倒し、最後にはトマスとその隊長と相討ちになって・・・」

「なって?」

「そこでイーフェメロからの映像が途切れてしまったんです・・・」
メアリーは、声を暗くして言った。


「・・・心配するなよ!トマスの事だ、どうせまた無傷で帰ってくるだろうぜ」

「そんなにいつもいつも、上手くいくでしょうか・・・」

「アームヘッドを、パイロットが死ににくいように改良していってるのはお前らだろ!」

「相手が殺す気だったら、話は変わります!」


「何でそうネガティブなんだよ?」
ブレジンが軽く睨んで言った。

「脳天気すぎるのも考え物ですよ!」
メアリーも睨み返し、背を向けた後ドアへと離れていった。

その足はドアの直前で止まった。

「ブレジン」
反省したように落ち着いた声で、メアリーが呼びかける。


「なんだよ!?」


「痛みが引いたら、トマスの捜索お願いしますね」

「・・・分かってらぁ」





一方、U.E.T研究施設周辺―


「ハハハハハ」
草やぶを抜けて道に飛び出したのは、ルチネ・ウケコビッチであった。

「俺様のバンシールちゃんがまたダメになっちまった・・・隊長に怒られるぅ」
持っていたヘルメットとブーツに大量に入ってしまった草の種をとりながら、ルチネは一人研究所へと向かう。

「ハハハ・・・誰も居ないのか?」
U.E.T.の敷地にはどういう訳か人間もアームヘッドも見受けられなかった。

「警備も避難してるのか・・・ハハッ、誰にも見つからなくて済みそうだ」
ルチネはこっそりと、人気の無い研究所裏口まで走っていく。

「見つからないとして、その間どうするんだ?言い訳でも考えるか?」
誰かに聞こえそうな声で独り言を言ったが、誰も反応しなかった。
ルチネの目の前には、施設長室の窓が大きく口を開けていた。

「ハッまずい、隊長より施設長の方が厄介だったっ」
窓すれすれまで姿勢を低くして、ゆっくりと通ろうとした。



「・・・なんてこった・・・」
施設長の落胆した声。

「やっぱり何だか知らない新人なんてプレーンビスケッツに入れるべきじゃなかったんだぁぁ」
机を殴る音が響く。

(新人・・・アリエールのことか・・・?)
ルチネが、窓を少し覗く。

「アリエールの暴走、ケナーの失踪、ルチネの脱走、そして、プレーンビスケッツの全滅ぅぅぅ」
取り乱した施設長が標語のようにテンポよく叫んだ。

(・・・全滅・・・だと・・・
 しかも、脱走した事にされてるだと・・・)
ルチネの頬を汗が伝う。

「何がダメだったんだ!?アリエールは凄腕の好青年、ケナー隊長と隊員たちは任務に忠実!完璧だったはずだ!」
施設長が書類の山をぶちまけた。

「私が新U.E.T.の所長になったのが間違い!?そんなバカな!!」


(前はもっとルーズな研究施設って聞いたな・・・)
一人で騒いでいる施設長を、ルチネはひたすら眺めていた。


「違う!私が来てから、この実験部隊は格段に強くなった!アリエールが隊を乱したのが原因なんだ!」
汗を拭いていたハンカチを壁に叩き付ける。




「・・・やっぱり、ルチネに教育係を任せたのが、良くなかったんだな・・・!!
 全部アイツの責任だ!!!」

(え?)

怒り狂う施設長の目に、オレンジに光る物体が留まる。
それが夕日に照らされたルチネの頭だと分かった時、施設長の中で何かが切れた。

「待てぇルチネェ!!今すぐ殺してやる!!」


「ハハハ!!もう二度と帰れねー!!」
施設長が投げた椅子が頭をかすめ、ルチネは全速力で逃げ出す。


窓につまづいた施設長が1mほど落下する。
その目にはもう点になって見えるルチネが居た。

「どのみち、私はお払い箱、プレーンビスケッツは、時化てなくなる、か・・・・・・」

施設長は地面に顔を突っ伏した。







”―トマス―”

「デデバリィ?」
頭に響く声で、トマスは目覚めた。


「・・・僕たちは、アリエールに勝ったの?」

”ああ だが・・・・・・”


第35話: 黒煙晴れて_b0142778_15241864.jpg



トマスがレーダーを見やる。すぐ近く、ほぼ同地点にホズフォンが居る事を示していた。

「一緒に墜落したのか・・・!」

”気をつけろ ホズピタスはまだ語りかけても来ないが、何か仕掛けるつもりかもしれない”

「今がチャンスだよ、デデバリィ」
トマスが、声を潜めて言った。

”何だ?”

「お互い身動きの取れない今なら、ホズピタスの調和者を救えるかもしれない!」

”しかし・・・”

「大丈夫だって、無茶はしないよ」
トマスは、コクピットに設置した拳銃に弾を込めた。
撃つ気は無かったが、こちらが殺されない為に必要なのだ。


イーフェメロのコクピットハッチが開放される。
視界に薄暗い山中が広がった。


ほぼ同時に、ホズフォンのコクピットも開かれた。


トマスは拳銃を手に、イーフェメロの陰へ。


小さな足音が聞こえた。
向こうのパイロットも接近してきている。


トマスは銃を持ち直し、息を飲んだ。

スライドをセットする音が響いた。
相手はすぐにでも撃つつもりだったろうか。
すでに体は動いていた。


同時だった。

拳銃を向けるトマスの前には、同じく銃を向けるパイロットスーツの女性。



一瞬の静寂。



銃が落とされた。


それはトマスのものではなかった。





「アロイージ・・・」


ケナーは、かつての弟の名を、呟いた。

by kozenicle | 2010-10-22 15:27 | ストーリー:デデバリィ

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