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デデストはこの辺りからおかしくなってくると思う
いや、もっと前からか・・・







あれから一週間が過ぎた。
トマスは机に向かい、白紙の設計図を前にして新型アームヘッドの構想を練っていた。


すると突然、マクタスがドアを開け、トマスの元へやって来た。

「工場棟に至急集合だそうだ。どうやら、新しく作業員が赴任してくるらしい」
マクタスはそれだけ言うと、近くにあったペンを持ってすぐに部屋から出た。

「そうなんですか!」
トマスはそう言った後、窓から工場棟の方を覗いた。

外に赤いアームヘッドが仁王立ちしている。
特徴的な頭部に、巨大な鉄球を背負っていた。
体の表面がまだ新品同様に光って、眩しい。

トマスは急いで工場棟へと向かった。



工場棟にはデデバリィ研究所の少ないメンバーが集められていた。

全員揃った事を確認し、ゼニ所長が口を開く。
しばらくの間会議で不在だった為、メンバーがゼニと対面するのは久しぶりである。

「今回は大事な話が二つある。一つは、近辺に現れた未確認機の事だ。
調査の結果、連邦の試作機である事が分かった。
今後単独で現れた際には必ず二機以上で相手をするように。
もう一つは、新しいメンバーがここで働く事になった」

ゼニはそう言うと、後ろに手招きをした。

すると工場棟の外玄関から、人影がゆっくり近づいてきた。

パイロットスーツを着て、髪の毛の一部を不自然に染めた青年だった。

メンバーが徐々にざわつきだす。
ブレジンだけは口を開け驚愕の表情を見せていた。

青年がゼニの隣に来たので、ゼニは再び口を開く。

「彼が新しく赴任してきた、ゴエン・ガッポガッポガッポ君だ」


「宜しくお願いします」
青年ゴエンは無表情で淡々と言った。


「皆、仲良くしてやってほしい。ゴエン君、仕事については工場長に聞いてくれ。それでは解散」
ゼニ所長はゴエンの肩を叩くと、研究棟へと向かっていった。


しばらくの間、まだメンバーはざわついていた。ブレジンも唖然としている。

「……しっかし、シケたところだな…」
ゴエンが下を向き小声で言った言葉を、メンバーは聞き逃さなかった。


ざわつきが止まった時、ブレジンの意識はハッとなった。

「おいゴエン!何でお前がココに!?」
ブレジンがまだ驚きながら言う。

「よう、採掘大会予選以来だな…かませブレジン!」
ゴエンがそう言い、口をニヤッとした。

「もう一度聞くぜ、何でお前が?」

「さあな、俺の価値が分からない奴の独断だろ」
ゴエンが薄ら笑いを浮かべ言った。


「知り合いなんですか?」
トマスがブレジンとゴエンに近づき、聞いた。

「ああ、ブルーグローブ時代の同僚だ」
ブレジンが軽く説明する。

「トマス・ボーリーといいます。これから宜しくお願いします」
トマスは礼儀正しく挨拶する。
しかしゴエンはしばらく黙っていた。


「……笑顔で返すとでも思ったか?ガキ!」

ゴエンは意地悪そうに言った。

「はぁ゙ん…?」
さすがのブレジンもこれには驚いた。

「ブレジン、コイツを俺に近づけるな。俺はガキが嫌いなんだ…」
ゴエンは呆れたように言った。

「な…誰が!」
トマスは不満そうな顔をした。

「あと、そこの女も近づけるな。俺は女が嫌いなんだ」
ゴエンはメアリーの方を向いて言った。

「何よ?」
メアリーも怒ったようにゴエンに言ったが、ブレジンに阻止された。
ブレジンはトマスとメアリーの肩を持って、ゴエンから少し離れた。


「いいか、ゴエンは…何というか、クレイジーなヤツなんだ…お前らも怪我したくなけりゃ、近づかない方がいいぜ…」
ブレジンが小声で二人に言った。

「珍しいわね、命令通りにするなんて?」
メアリーが意地悪げに言った。

「今回はしょうがないぜ…
…多分アイツは、向こうで問題を起こしたからココに回されたんだ。お前らも巻き込まれないようにしろよ」
ブレジンは静かに言った。

「先輩は?」
トマスが聞く。

「オレは平気だ、ここじゃアイツを扱えるのはオレとゼニさんしかいねぇ」
ブレジンはそう言った後、ゴエンの方に向かった。


「まったく、ゼニの奴は昔と変わっちゃいねーな。人遣いが荒いぜ…ゼーニィだってもうちっとマシな性格だったのによ」
ゴエンはゼニが聞いていないのを良いことに、呟いた。

「…さあ、こっちだ。新入り君」
工場長はそう言い、ゴエンを研究棟へと連れて行った。




「…何よあの子!カワいくないわね!」
ミスターGが言った。

「とんだ問題児のようだな…」
マクタスが呟く。

「こっちからだって近づきたくないわよ」
メアリーが嫌そうに言った。

「ガッポガッポガッポ…ゼニ所長の血縁?」
トマスが呟いた。





所変わって、連邦の研究所―U.E.T。


ここにも新しくパイロットが赴任して来ていた。



ケナーの元にルチネ・ウケコビッチが現れる。

「ケナー隊長、新人が挨拶に来たようです」
ルチネは笑わずに言った。

ケナーはそれを聞き、ふと窓の外に目をやる。


近くに極彩色の発光器と黒い翼を持つアームヘッドが立っていた。


「ハハ、えらい派手ですわな」
ルチネがいつもの調子で言うと、ドアが開いた。


「失礼します」

入ってきたのは細身の青年であった。
端整な顔立ちに、綺麗なブロンドの髪。
多くの人にとって、第一印象は悪くないだろう。

「アリエールと申します。これから宜しくお願いします」
青年は礼儀正しく言った。

「ルチネ・ウケコビッチだ。宜しく頼む」
ルチネは青年に手を差し出した。

青年は笑顔で返し、手を握った。

「で、向こうがケナー隊長」
ルチネが言うと、青年はケナーの方に向いた。


「ケナー隊長、これからお世話になります」
青年アリエールは笑顔で明るく言った。


しばらく黙っていると、青年が手を差し出した。


しかしケナーはそれに応じなかった。


「宜しく」
ケナーはそれだけ言うと、椅子に座り資料を眺めた。


ケナーは彼に対し無愛想にあしらっていた。ホズピタスの本能が何かを感じ抑えていたのだ。


あながちそれは間違っていなく、次にケナーが彼を見たときには、


彼―アリエールは、握手した手を水道で入念に洗っていたのだ。
その表情はよく見えなかったが、それで良かったのかもしれない。

by kozenicle | 2010-01-12 19:04 | ストーリー:デデバリィ

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